増上寺の大門前に「芝大門更科布屋」という日本蕎麦のお店がある。東京タワー観光の行き当たりで入ったお店なのだけど、以来気に入って何度か通っている。
信州の反物商布屋萬吉が薬研堀に「信州更科蕎麦処」を開店したのが寛政三年(1791年)。芝大門では大正二年より続く創業220余年の名店だが、「変わり蕎麦を始めとする5種類のおそばで季節感を、様々な酒肴で江戸庶民の文化に少しでも触れていただければ幸いに思います」という店主の誘いが嬉しい粋な店。
この7代目布屋萬吉さんが「店主の独り言」というエッセィをホームページに掲載し、お店の箸置きの横にもプリントを配っている。これがまた粋で気に入っているのだ。
2月号は第183話「老舗の心得」。ここに慶應義塾大学文学部教授だった故池田弥三郎さんの『東京の志にせ』(池田弥三郎編アドファイブ出版局1978年)と、日本橋榮太樓總本鋪六世細田安兵衛相談役の談話とを引いて、「家業を時代と共に育てて行く中で、変化しない本質的な物を忘れぬ事に加え、新しく変化していく物を常に取り入れて行く事、新味を求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質である」と説かれる。
この「独り言」を読んで、これはこのままキリスト教会にも通じるのではないかと感じた。教会もまた「時代と共に」育っていくだろう。キリストの福音は「変化しない本質」だが、時代の人々の悩みや苦しみの現実を受け止め「常に取り入れて行く」に違いない。「流行性」とは言わないが、その時代の一人の苦しみと無関係に福音が一人歩きするはずはない──時代の教会がそれを受け止めきれないということはあったとしても──のだから。
店自慢の突き出し三種を舐めながら、店主こだわりで集めた各地の地酒の一合瓶を傾け、良い気分になったところでこれまた店伝統の月替わりの「季節の蕎麦」をたぐる。眼福口福。決して長居せず、良い気分で店を出る。粋だなぁ。